マジック2010でマジックの再体験

アーロン・フォーサイス

Original Article:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/feature/27a Translated by Yoshiya Shindo

 現在、人気のあるゲームについて考えてみよう。そのほとんどが、テトリスやハーツのように、最も重要なコンセプトが非常に単純であるか、マッデン NFLやグランド・セフト・オートやアグリコラのように、その話題やジャンルに対して多くのイメージをあらかじめ引き出してくれるような強烈な色付けがある ― 色付けがは、そのゲームの数多くのルールを手早く吸収する助けとなってくれるのだ。マッデンをプレイする前の段階で、君はフットボールに対してある程度の知識があるだろうから、あとはスクリーンでその本領を発揮するまでだ。誰も“ワイドレシーバー”や“フェイクパント”や“エンローチメント”の意味を聞いたりはしないだろう。

 ここウィザーズ社では、われわれは繰り返し繰り返し、そのレベルの色付けをこのゲームに持たせ、マジックに新たなプレイヤーをさらに引き込む方法を再考察し、検討している。我々にとっての潜在的なプレイヤーのほとんどは、伝統的なファンタジーに対してある程度の知識がある。したがって、我々のゲームを遊ぶときには、彼らの知っているファンタジーがまさにそこに展開されているように感じるべきなのだ。

 基本セットは、新人にマジック:ザ・ギャザリングの世界を紹介しゲームを教えるのには一番の方法だろう。それゆえに、最優先課題として、それはイメージに満ち、プレイヤーに共感をもたらすものでなくてはいけないのだ。ほとんどの人々がすでに頭の中に持っているファンタジー的な生物や呪文の概念は基本セットにあるべきであるし、その概念はゲームのメカニズムを理解する助けであるべきだ。

 そもそも、マジックはこの手のイメージに多くを頼ってきた。《Rock Hydra》、《Vesuvan Doppelganger》、《火の玉》といったカードは、純粋なルール上の観点から言えばややこしいが、どれもその“感触”ゆえにプレイヤーに愛されてきたカードである。ファンタジー好きのほとんどは、多くの首を持つ竜とか、変わり身の悪霊とか、火の玉なんていうものに対して何らかの知識があり、そのコンセプトがそのままカードになって、自分の思い通りにゲームで使えるのだ ― 素晴らしい!

 マジックが年を経るにつれ、我々は少しずつ、カードのデザインにおけるファンタジー的感動というものから遠ざかってきていた。その道をたどってきた理由は理解できるが、中でも基本セットはその被害をいささか長くこうむり過ぎて来たように思える。《鉄の根の樹人族》や《黒騎士》といった慣れ親しんだ感情に訴えるカードは、メカニズム優先の《木登りカヴー》や《ナントゥーコの鞘虫》に変わったが、その名前やコンセプトはすでにこの世界にかかわってきている人々以外には無意味だろう。基本セットは新しいプレイヤーに対して語りかける能力を少々失っていたのだ。確かに、基本セットは色の割り振りといった面においては単純で素晴らしいカードを集めてきたが、その点で興味を持ってくれる人がどのぐらいいるんだろうか?

 この夏から、元々持っていた共感を得るための力を取り戻すべく、基本セットは大幅に変更になる。ぜひ友達に伝えてほしい。基本セット2010の準備をしておけって。

今年は何年?

 我々が基本セットを検討しているうちに気づいたことの一つが、セットの持つ名前自体が新人にとっていささかの恐れを呼んでいるのではないかということだった。「第10版だって? もう9版も出ちゃってるの? 第1版から始めなくちゃいけないんじゃないの?」 我々の歴史を箱の前面に押し出すことは、人々に“新しい”ゲームを薦めるにはあまりいい戦略とは言えない。この問題を解決するため、我々は自動車メーカーやマッデンNFLのゲームに倣い、基本セットに年号をつけることにした ― 基本セットが出た年の翌年の年号だ。つまり、この7月に出るセットはマジック:ザ・ギャザリング基本セット2010、あるいは単にマジック2010と呼ばれることになる。あるいは、もっと短い方がいいって人のためには、エキスパンション・シンボルの表記の通りに“M10”って呼んだってかまわない。


 発売される翌年の年号をつけるってのは変に思うだろうか? 確かにそうかもしれないが、これは業界の標準だ。製品をより長い間新鮮に見せるためには、6ヶ月間の正確さを重要視して残りの半分を時代遅れに感じさせるような方法はとるわけには行かないってことだ。心配しなくても、そのうち慣れてくるだろう。

中身は?

 前述の通り、この製品における最大の目的は、そこからにじみ出るファンタジー的感覚にある。その目的を満たすため、我々は強力なデザインチームを結成した。私、開発部副部長のビル・ローズ、マジックのヘッドデザイナーのマーク・ローズウォーター、ヘッドデベロッパーのデヴィン・ロウ、クリテイティブディレクターのブレイディ・ドマーマス、新事業のデザインマネージャーのブライアン・ティンズマンだ。我々6人は過去のマジックのカードをすべて洗いなおしてこの新たな基本セットの実例にあるカードを探し回り、マジックの過去に探しているカードが見つからなかった場合は、まったく新しいカードを作り出した。

 その通り ― 基本セットに新カードが入るのだ。セットから基本土地を除いた229枚のカードの内、ほぼ半分が君たちがこれまでに見たことのないカードになる。これは、我々のゲームが始まったときからの基本セットに対する扱いから、大きな、非常に大きな変化となる。しかし、これは必要なことなのだ。これまでのカードの採録に限ることは、ゲームに対する最善の導入を作るためには単なるハンディキャップにしかならないのだ。

以下は、この夏に君が目にする新たなカードのほんのさわりだ。




 これら3枚のカードは、ゲームの用語を使って、新人にもベテランにも同様にファンタジー的イメージを思い起こさせる素晴らしい例となってくれるだろう。《Silence》は他のプレイヤーが呪文を唱えるのを妨害する。《Wall of Frost》は触った者を凍らせる。《Capricious Efreet》は強力だが、同時に手に負えない混沌を巻き起こすのだ! これなら、ゲームに関する知識がゼロの人でも理解してもらえるだろう。発売が近づいたら、さらに画期的でイメージに満ちたカードが、公式プレビューで発表されるだろうからお楽しみに。

 もちろん、これまでのカードの中でも、イメージに満ち、あるいは愛され、あるいはその両方であるカードは数多くあり、その多くがマジック2010で再録されている。




 これまでの基本セットと同様に、我々は最近のカードを“ローテーション入り”させる ― 再録カードのすべてが、マジック初期の頃の再録ってわけじゃない。最近のカードの再録の中でも最も人目を引くのは、ローウィンの5枚のプレインズウォーカーの再録だろう。彼らは本来いるべき場所、神話レアに格上げされる。


 プレインズウォーカーを基本セットに入れることに関しては、社内でも多くの議論がなされた。多くの人々は、その難しさを心配していたのだ。このカードが難しいことは疑いが無い ― カード自身でそのシステムをわかってもらえないレベルの難しさだ ― が、それが新人プレイヤーに伝えるイメージを犠牲にしてまで単純化はさせたくはない。基本セットのカードにはゲームの面白さとか興奮を伝える役割があるのだから、マジックの過去におけるキャラクターであるプレインズウォーカーは、ゲームの顔として、その役割を担ってくれるだろう。私としては、プレインズウォーカー・カードが非常に印象的であるが故に、その背景にあるルールというものを学んでくれることを願っている。

自分には何の意味があるの?

 マジック:ザ・ギャザリング 基本セット2010  

プレリリース:2009年7月11-12日
発売日:2009年7月17日
セット枚数: 249種類
           (コモン:101、アンコモン:60、レア:53、神話レア:15、基本土地:20)
製品:エントリーセット5種類、15枚入りブースター、6枚入りブースター、ファットパック (一部英語版のみ)
公式発表

 この新しい基本セットのアイデアがうまくいくためには、それが新人だけでなく、マジックのコミュニティすべてにとって適切なものでなければならない。既存のプレイヤーが、それをプレイし、それについて話し、ドラフトし、評価し、認めなければいけない。新カードはみんなにとって素晴らしいものだろう ― そして、その中には、非常に強力なものもあるのだ!

 過去において、基本セットはすでに存在しているプレイヤーにとって無用の長物と化してきていた。それは単なるスタンダードで使えるカードのリストに過ぎないものとして扱われ、その結果として、棚からだんだんと姿を消し、ある時点で新人がゲームを始めることを難しくしてきた。

 しかし、マジック2010はすべてを変える。このセットは最も純粋なマジックであり、あらゆるレベルの腕のプレイヤーに対してアピールするだろう。デベロップのエリック・ラウアーは強力なチーム(マイク・チュリアン、トム・ラパイル、グレッグ・マルケス)を率い、その結果、このセットはリミテッドでも素晴らしく、構築でも意味を持ってくる。

 その素晴らしさは、ぜひ皆さんにも知ってほしい。我々はこれまで行ってきたものと同様のプレリリースと発売記念パーティーを、2週にわたって行う ― 基本セットとしては初の試みだ。新しいカードはいつだって興奮するものだ。そして、これまでの基本セットとは異なり、このセットはマジックの最高のステージでもその輝きを見せることになる ― この夏の、ボストン、新潟、プラハで行われるグランプリは、マジック2010のリミテッドで競われる。

 このセットを他の上級者向けエキスパンションと同様の“現実の”ものとし、すべてのレベルのプレイヤーがイメージに満ちたマジックを楽しんでほしいと思っている。

どのぐらいの頻度で出るの?

 基本セットを適切なものとするためのもう一つの計画が、それを2年に1回ではなく、毎年新しいものにするということだ。基本セットを毎年出すことは、これまででもイーヴンタイドコールドスナップUnhingedで行ってきたが、今後はよりきちんとしたペースで、毎年3つの上級エキスパンションと1つの基本セットを出していく。

 基本セットの移り変わりの激しさを緩めるために、2010の夏の始めに、マジック2011基本セットが出る時点で、フォーマットのローテーションのポリシーを変更する予定だ。マジック2011によりマジック2010がスタンダードから押し出されることはない。代わりに、ローテーションの日付は年に1回だけ、秋に大型セットが出るタイミングのみになる。コードネーム“ライト”の名のセットが2010年の終わりごろに出るが、この時点でアラーラの断片のブロックとマジック2010が同時にスタンダードから落ちる。基本セットは、それの前に出たブロックの一部分としてローテーションする。2010年からは、3ヶ月間だけ2種類の基本セットが使用可能になるが、これも初のことだ。

 ただし、マジック2010がこの夏に出た時点で、第10版はこれまでのポリシーに則ってローテーション落ちする点には注意。

 エクステンデッドに関して言えば、この新しいスタンダードのポリシーにより、デヴィン・ロウ(訳注:リンク先は英語)が2008年3月7日にコラムで発表したエクステンデッドのポリシーは少々変更になる。スタンダードの場合と同様に、エクステンデッドでは基本セットはその前に出たブロックと同時にローテーション落ちする。したがって、この秋にコードネーム“リヴ”のセットがローテーションに入ると、オンスロートブロックと同時に第8版が落ちることになる。

それまでは……

 以上が、今回の発表、およびその理由だ。私個人も、今回の件はゲームにおける大きな変更点になると信じている ― まず何よりも、これは新人にもベテランにも楽しく興奮するセットであるし、君の小さな従兄弟にこのゲームを教えるために使えるセットであるし、君が来るべきグランプリで戦うためのセットである。一言で言えば、これはマジックだ。

この夏に登場するマジック2010のプレビューにも乞うご期待!


マジック2010に関するちょっとした事実。


←戻る