漏洩の出来事

――盗品、尚早、そして苦痛

マーク・ローズウォーター(Mark Rosewater)
Translated by Yoshiya Shindo
元記事:http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr40

 土曜の夜、君は特別な誰かと映画に出かける。ちょっと高めのバターか何かまみれのポップコーンを食べながら椅子にもたれているうち、明かりがだんだん消えていく。うっとうしいコマーシャルの後、予告編が始まる。最初のシーンがスクリーンに映り、君はそれが見たくてたまらなかった映画の予告編だと知る。映像が網膜に飛び込んで、アドレナリンが回り始める。そして三分後。そこでは映画の重要なあらすじが全部ばらされていた。

 これはだまされたような物だ。九ヵ月後、君は素晴らしい映画のために10ドルほどをぽんと払う予定だった。君はそれでもお金を払うんだろうが、思っていたほどのものは得られない。その予告編を作った奴は、君の未来の幸せを盗んでしまったんだ。そして、それに対して真の意味で君にできることはほとんど何も無い。

 さて、分かって欲しいんだが、私は予告編反対主義者じゃない。いい予告編は来るべき映画に対する君の欲望を刺激する。いい予告編は君を期待させ、その映画を見たくさせる。いい予告編は映画の体験を増やしてくれる。私がここで問題にしているのは、悪い予告編だ。君が知りたい以上のことを教えてしまうものだ。これは何も君に与えてくれず、むしろ君が見るべき映画から何かを取り上げてしまう。

 どうしてこんな話を「マジックの作り方」コラムに持ってきたのかって? それは、今回の話題が、マジック:ザ・ギャザリングの世界で起こっている同じ現象のことだからさ――その現象は、漏洩ってやつだ。

漏洩を受ける

 数ヶ月前、マジックのブランドマネージャーのカイル・マーレイ(Kyle Murray)は漏洩情報の存在を認めないのかについて素晴らしい文章を書いている(まだ読んでなければ、ぜひ読んで欲しい)。一言で言えば、カイルは漏洩情報に関するウィザーズ社のポリシーを説明している。それは「ノーコメント」だ。我々は漏洩情報について語ることは無い。そうした場合、我々はその情報に更なる信憑性を(良かろうと悪かろうと)与えてしまうからだ。

 今回、特定の漏洩情報についてかたることはしない。代わりに、一般的な漏洩について話そうと思う。私からのメッセージは「我々ウィザーズ社は、許可外の漏洩情報を良しとしない」だ。その理由は? 正確な理由は上に書いたとおりだ。我々が売っているものの一部は、新しいセットの中の謎なんだ。君がマジックのパックを買ったときに、それを開けて新しいカードを発見したときのアドレナリンの巡りを考慮しているからなんだ。

 この宣言が出たところで、いくつか疑問がでると思う。なので、まずは最大の疑問から答えていくことにしよう。

漏洩を良しとしないなら、どうしてウィザーズ社は(magicthegathering.comや広告なんかで)カードを漏らすの?

 私はカードの漏洩自身を良しとしないとは言っていない。我々が良しとしないのは、許可外の漏洩情報だ。上で予告編に例えたけど、調整されたちょっとした漏洩には意義がある。我々がやりたいのは欲望の刺激であって、何もかも与えたいわけじゃない。

 我々はここウィザーズ社で非常に長い時間をかけて、どのカードをプレビューすべきかを決定している。我々はセットの新しい要素を、強いカードを片っ端から見せることなしに展示することのできるカードを、目的を持って選んでいる。そして、我々が情報を発信する場合、その一粒ずつを楽しむのに十分な時間が得られる割合で行っている。一方で、漏洩を行う人々のほとんどは、とにかく"強いやつ"を出してしまう傾向がある。ローズバドはソリだ。彼は死んでいるが、そのことに気づいていない。ベイダーは彼の父だ。ヴァーバルはカイザー・ソゼだ。彼女は映画の中ほどのシャワーシーンで死ぬ。漏洩のちょっとした事実でも、何もかもが台無しになってしまうんだ。

それはつまり、今後のセットに関して情報を流しているサイトが気に入らないってこと?

 インターネットというのは情報だ。情報が存在すれば、その情報を掲示するウェブサイトがあるだろう。問題はそのサイト自身ではない。問題は、そのサイトに情報を渡す人々だ。ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社(あるいは世界中の我々のディストリビューター)は君に内部情報を公開する許可を与えていないから、この行為は不法行為に当たる。君はウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の知的財産をタダでばら撒いていることになる。そして何より、君のやっていることは他のプレイヤーに損害を与えている。

 ここが重要な点だから、強調しておこう――私が思うに、情報を漏洩する人物は、それが良いことだと信じてやっているのだろう。新しいマジックのエキスパンションの情報を欲しがっている人々が存在するから、漏洩を行う人は彼らが求められているサービスを行っているに過ぎないと思っている。彼らが理解できていないのは、これが情報を欲しがっていない人々を信じられないほど傷つけていることだ(これについてはもう少し後で)。

 世の中には合法的な情報もたくさんあるから、注意深くその手の情報を集めてサイトを作っている人々のことは光栄に思っている。人々が我々の与えることのできる限られた情報から何らかの方法で追加の情報を抜き出すことができた人がいたとしたら、それは素晴らしいことだ。我々が"Orb of Insight"を作った理由は、君たちに情報それ自体から一部の情報を抜き出すことをしてみて欲しかったからだ。

 今回のメッセージは、情報を集めて非難を浴びているマジックのサイトに当てたものじゃない。その存在自体は非常にうれしく思っている。それらのサイトはマジックの健全さの証だ。我々が行っているオンラインの記事からの情報の確保を、ほとんど無視しているゲーム会社もあるんだ。我々は非常に、非常に感謝している。今回のコラムを、策略か何かだとは思わないで欲しい。今回の私のコメントは、漏洩の元に対してのものであり、それらを報告する機関に対するものではない。ただ、この手の許可外の漏洩情報を破棄しているサイトがあるとしたら、たくさんの拍手を送りたいと思う。他の人々が我々の懸念に同調してくれたら素晴らしいね。

新しいセットのカードを見たくない人は見なければいいだけじゃないの?

 これは漏洩に対する基本的な防御法だ。セットに対して何か見つけようと思ったら、積極的に(漏洩情報のあるサイトを)見に行かなくちゃいけないだろうからね。それじゃ、どこに問題はあるのか? 嬉しい人は見に行けばいいし、そうじゃない人は見ることを控えればいい。この前提における問題は二つある。

 第一に、情報は簡単に封じ込めることができない。例えば、新しいウェブサイトで情報が漏洩されたとしよう。他のマジックのサイトがそこにリンクする。その後、他のインターネット上のライターがその新しい情報を自分のコラムで参照する。そして、その情報は適当なマジックのサイトを訪れたり、面白い文章のリンクをクリックしたりした瞬間に明らかになってしまうのさ。情報を知りたくはないのにウェブ上のマジックの記事が好きって人は、ついうっかり情報を暴露されてしまう。この問題は現実世界でも起こりえる。誰かが知ったことを、誰か別な人に教えたとする。そうなると、インターネットを読むことすら拒否している人間の耳にすら漏洩情報は入ってしまうんだ。

 第二に、人々は知られざるものに惹かれてしまう。本当は知りたくないと思っているプレイヤーの多くが、それでもちょっと覗き見してしまう。好奇心かもしれないし、友達の知っている情報を知りたいのかもしれないが、その誘惑に負けてしまったプレイヤーは後に後悔することになる。漏洩の後にかなりの確率で発生するのが、セットを全部知ってしまったことを嘆いているネットへの書き込みだ。誰かが見たくないと思っていても、実際に見ないとは限らない。誘惑は残酷な乙女なのさ。

びっくりさせることが重要だっていうなら、なぜプレリリースなんかやるの?

 びっくりさせることが重要だから、プレリリースをやるのさ。プレイヤーは新しいカードを手に入れて使う機会を求めている。さらに、彼らはそうすることで、同じ体験をしている他のプレイヤーと興奮を分かち合うことが好きなんだ。

 どうして分かるのかって? 我々は多くの時間をかけてデータを蓄積してきた。そのすべてのデータにおいて、プレイヤーはプレリリースの経験を評価している。プレリリースは、世界中で最も多くのプレイヤーが集まるイベントだ。さらに興味深いこととして、漏洩とプレリリースの参加者の間には相関関係がある。セットが早々と漏洩されてしまうほど、参加者は減ってしまうんだ。

 プレリリースは認定イベントだから、プレイの場に出る前にカードを知っておく必要があると感じているプレイヤーも多数いる。私はこれが二つの理由で間違いだと思っている。一つは、真の不均衡は、セットの内容が漏洩したことで、それを知っているプレイヤーと知らないプレイヤーの間に発生するものだ。第二に、プレリリースではその場でカードを測る技能が試される。カードのセットを知らなければ、それだけ技術が試されるんだ。プロツアーの力量をインビテーショナル(かつては手作りのカードを足したりしてたものだ)で試してきたものとして言わせてもらえば、それは大々的に技術を必要とするものだよ。

要はお金なんでしょ?

 私がこのコラムを書く動機は何なのか? 経済的な要因? 確かに。ウィザーズ社はマジックを売るのが仕事で、漏洩はマイナスとなる(それほど大きいわけじゃないけれどね)。

 私の立場としては、これはプライドの問題だ。ウィザーズ社は長い期間における販売の計画を立てている。我々の計画は、できるだけたくさん、できるだけ長く顧客の皆さんに楽しんでもらうことにある。我々にとってこれは長期戦だ。そのために、我々はものすごい量のエネルギーを製品の質に注いでいる。我々が素晴らしい製品を作れば、君たちは喜んで買ってくれるだろう。しかし、我々が目指すのはさらに先にある。素晴らしい製品を作るだけじゃなく、素晴らしい環境を作りたいと思っているんだ。

 開発部(あるいはウィザーズ社全体)は数え切れないほどの時間を使ってマジックのメタゲーム(この場合は、ゲームのあらゆる要素――遊ぶこと、トレード、デッキ構築、マジックに関するおしゃべり等――を意味する)を強化してきている。例えば、magicthegathering.comの作成なんかはこの要求が動機だ。そんなわけで、我々は自分の仕事に誇りを持っている。だから、みんなが知るべきか知らざるべきかを考えない不正な手段で得た情報があると、私個人は辛さを覚えるんだ。

漏洩の検討

 今回のコラムの最後は、漏洩をしている人自身に語ることとしよう。マジックは探索のゲームだ。多くのプレイヤーは、新しいパックを開けたときに何が出るのか分からないことに、多大なる喜びを得ている。君が情報を流せば、他の人が犠牲になる。君の行動が波紋となって何千もの人々に影響を与えることになる。次のエキスパンションの謎を奪ってしまう前に、このことを考えてみて欲しい。

 それでは、またお会いできるときまで。それまでの間。君が開けるパックの中から、全然知らないカードが出てくることを祈念しつつ。

 マーク・ローズウォーター


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