法と秩序

――マークができるだけ語る「例の」訴訟

マーク・ローズウォーター(Mark Rosewater)
Translated by Yoshiya Shindo
元記事:http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr233

訳注:今回は訴訟に関する、記事の前半部分のみの翻訳です(後半は開発部の人事に関する話題)。なお、2007年6月20日のプレスリリースで、この裁判におけるすべての司法取引が完了したことが発表されています(ソースはこちら)。

 今回は、多くの期待が寄せられていた話題について語ろうと思う。そう、やっとRancored Elfの訴訟に関して話ができるようになったのさ。これに関しては、ちょっと真面目に語らせてもらおうと思う。

 今回の内容を書くに当たって、いくつか言っておきたい事がある。第一に、自分ではできるだけの内容を書くつもりだ。ただ、これは法の問題であって、何から何まで自由に話していいってわけじゃない。できるだけはっきりとわかるように努力はするつもりだけど、いつもみたいに率直にやるってわけには行かないんだ。とは言え、弁護士が許すかぎりはできるだけ押し込んでみようとは思っている。第二に、内容に関してはもって回して言うつもりは無い。ここで説明するのは、いくつかの問題に関するウィザーズ社の立場だ。何とかして我々が正しいことを君に納得してもらおうってつもりは無い。単に我々がどう思っているかを語るだけだ。今回のコラムの目的は議論を巻き起こすことなわけじゃなくて(もっとも、そうなるだろうけどね)、なぜ我々がこんな行動を取ったかを理解してもらう助けとしてもらうためだ。世の中には我々の意見に反対の人がいるのもわかっている。その人達には敬意をもって、我々に従う義務は無いと言っておこう。

 さて、では問題の項目に進むとしよう。ウィザーズ社はエンターテインメントをビジネスとしている。我々はエンターテインメントを提供する商品を君たちすべてに売ることによって金を稼いでいる。したがって、我々にとって最も重要なのは、できるだけ大きな楽しみを与えるエンターテインメントを生み出すことだ(まあ、短期の収入のために長期の株式を紙くずにすることは無いとか色々あるんだけど、骨子はわかってもらえるだろう)。我々の信念に、新しいエキスパンションの発売における感動を最大にするためには、聴衆が新しいエキスパンションの情報をいつどうやって手に入れるかを決定する能力が必要だというものがある。

 我々にはそれを行なう権利がある。これは我々の商品だ。我々の仕事はマジックだ。数百人の生活がマジックの成功にかかっていて、法もそれを後押ししてくれている。発売前のセットの情報は独占情報であり、それゆえに、発売前のセットは著作権により守られている。それはウィザーズ社の財産なんだ。誰かがその情報(や画像)を奪って我々の許可無しにそれを公開した場合、それは法を犯している。

 実際の話、世の中には、情報が漏れたほうがゲームにとってはいいことだと信じている人々がいる。言っておくけど、我々はリリース前にはあらゆる情報を先行発表すべきでないなんて思っていない。単に、どの情報を出すかはコントロールしていきたいと言っているだけなんだ。我々は多くの時間とエネルギーを費やしてセットをどうプロモーションしていくか検討している。我々がカードをプレビューする場合、我々が何を見せたいのか、なぜそれを見せたいのか、それによって何をほのめかすべきか、それを見せても公にならない面白い内容は何かなど、多くの時間を費やして正確な情報を求めている。しかし、漏洩情報が公開された場合、一般的にはこれらのことは実行されない。その人物が全体の情報を持っていないというのも一因だし、そもそもそんなことを気にしていないっていうのも理由だろう。

 カードが漏洩された場合、それは大きな影響がある。何時間もの作業(magicthegathering.comやその他)は無駄になる。雑誌やオンラインのサイトは収入を失う。それぞれに確約されたプレビューは価値が下がってしまうからだ。トーナメントの主催者は参加者を減らす羽目になる。開発部はセットの質に関して汚名をかぶることになる。というのも、情報は不正確だったり古いものだったりするからだ。君たちはこのどれも気にはしないだろう。しかし我々は気にする。これは我々のビジネスだ。我々には社員もいるし、そこにはプロとしての関係もある。そして、第一印象は売り上げに関わってくる。これらのことをまったく気にしないというなら、はっきり言って、それは無頓着と言うものだ。

 我々がこの問題を徹底して取り扱うのは、我々がそれをしなければいけないからだ。それは我々の仕事だ。マジックが君たちすべてにとってはゲームの一つである一方、我々にとってはそれはしかるべく扱わなければいけないビジネスなんだ。この情報は我々の情報であり、我々にはそれを望むように扱う権利がある。一言で言えばこうだ。我々には自分の財産を守る権利がある。

昨年の十二月、Rancored Elfは第三者から三枚の時のらせんのテストプレイカードの画像を受け取った後、それをネット上の掲示板に投稿した。これがどれだけ一線を踏み越えているかを説明しよう。
 さて、そろそろRancored Elfの話に進むとしよう。Rancored Elfは他の数名の助力を得て、蟻の穴を掘る仕事の仲介をした。ただし、その蟻の穴は、大山を揺るがすものだ。昨年の十二月、Rancored Elfは第三者から三枚の時のらせんのテストプレイカードの画像を受け取った後、それをネット上の掲示板に投稿した。皮肉なことに、彼はそれが本物かどうか考えもしかった(法的に言えば、それは知ったことではない)。これがどれだけ一線を踏み越えているかを説明しよう。この時点では、時のらせんよりも前に未発売のセットが三つある状態だった。それはその時点でのブロックの一角ですらなかった。ウィザーズ社にとって大事なのは、現在のセットなり、もうすぐ発売される新セットなりに視線を向けることだ。しかし、ブロックの最初のセットが出た後に起こったのは、プレイヤーの視線が次の年のブロックに向いてしまったことだった――まだ十ヶ月も買うことのできないセットだ。

 そして、これは問題の半分でしかない。我々は完成前の製品をプレイヤーに見て欲しくない。歴史的に言って、調整チームにあるこの時点でのカードは、カードが変更前だとか、メカニズムが変更前だとか以前に、テーマが変わるものだ。そもそも何に重点を置くかが変わるんだ。セットが発売された後にテストプレイのカードを見るのは意義がある。そこに意味合いがあるからだ。商品が最終的にどうなったかは知っているわけだしね。しかし、最初に見るのが今後も繰り返しいじられる上にまだセットに入ることの確定していないカードだとしたら、これは最悪の第一印象だといわざるを得ない。

 そして何よりも、この写真は実際のテストプレイのカードであり、すなわちとんでもないセキュリティの突端なわけだ。我々は非常に頭にきた。こんなレベルの情報漏洩は未だかつて無かった。前述の通り、これは大山を揺るがす蟻の穴だ。我々はこれは十分な問題だと決断した。そんなわけで、行動を起こしたんだ。

 ここからは、発言に色々時を使わなくちゃいけない項目だ。我々はRancored Elf(と姓名不詳の個人十名)を訴えた。訴訟それ自体について語ることはできないけど、Rancored Elf自身とは双方納得のいく司法取引が行なわれ、彼は裁判から外された。我々は今後も個別の情報漏洩の発信源を追跡し、これに対して適切な行動を取ることで、これが再び起こることを防ぐつもりだ。

 で、ここからは重要な事項だ。今後も新たな漏洩が引き続き起こっていくのは間違いのないところだろう。理解していただきたいのは、ウィザーズ社は、我々が許可していないあらゆる種類のスポイラーを見逃しはしないということだ(テストプレイのカードのことばかりを言ってるわけじゃないよ)。君がこの手の情報――あらゆる類の非公開情報――を手に入れる立場にある場合、それを世界に発信する前に十分考えてみて欲しい。ウィザーズ社は必要とあらば行動にでるだろう。

 さて、非常に厳しい会社の立場のパラグラフから、もう少し個人的な話に進めるとしよう。会社の表看板として話すのじゃなく、ここからは私の個人的な感想だ。以下で語るのは、あくまでマジックの仕事をしている人物の中の一人としての、スポイラーに対する考えだ。私は全身全霊をデザインに傾けている。私は人々が私の仕事に対してどれだけ気付いてくれるかを非常に気にしている。私はプレイヤーに、新しい商品を期待して待っていて欲しい。私は良いプロモーションによる興奮感が大好きだ。私は様々なことの発表を控えることで、プレイヤーがパックを開けたときに驚いて欲しいと思っている。これらはみんな、私が長い時間をかけて、全力を尽くして最高の体験をしてもらおうと思ってすることだ。

 そんなピースが、知るべきでない情報を漏らした誰からからデータを得た誰かのせいで台無しにされたら、そりゃ頭にくる。分割カードの情報が漏れたときに私がどうだったか聞いてみて欲しいもんだ。我々はそれを公にせず、プレイヤーには事前情報なしでそれを見て欲しかった。そうしたら、誰かが盗まれたカードのシートをネットオークションにかけたのさ。新しい罵り言葉を発明したのは確実だね。

 ウィザーズ社を何の表情も持たない企業モンスターだと思うのは簡単だけど、実際はそれは、できるかぎり君たちみんなをハッピーにさせることで生計を立てている多くの人々の集団に過ぎない。我々は何時間も何時間もかけてものすごく細かいことを議論している。それは我々の仕事の質を高めるためだ。そしてそれはうまくいっていると思っている。ラヴニカブロックは、デザインから調整からクリエイティブな面に至るまで、歴代最高のブロックだと私は思っている。そして、時のらせんが出ることに私が興奮していることから察するに、我々はこれからノリノリになるだろう。だから、私がこうやって話をするときには、私が真剣に責任を負って話しているんだと理解して欲しい。

 私は、監視されていないスポイラーの類は、ほとんどのプレイヤーにとって楽しみを取り上げてしまうと固く信じている(これに関するコラムを読んでみたければこちらへどうぞ)。私に同意してくれない人がたくさんいるであろうことはわかってはいるけど、他の人々の考えを基準にしては私の仕事ができなくなる。私は私が正しいと思ったことをしなくちゃいけない。そして幸運なことに、私と一緒にマジックを作ってくれている人々は私に賛同してくれている。私はこのゲームを愛している。私の目的は君たちと同じだ。すなわち、これを一番面白く、一番驚きに満ち、一番記憶に残るゲームにしたいんだ。このゲームが私にとって人生の重要な一部であるように、君にもそうなって欲しいんだ。

ウィザーズ社を何の表情も持たない企業モンスターだと思うのは簡単だけど、実際はそれは、できるかぎり君たちみんなをハッピーにさせることで生計を立てている多くの人々の集団に過ぎない。
 そのために、私は自分が(そして繰り返すけど、他のマジックを作っている人すべてが)正しいと思う方向に進まなくちゃいけない。それはつまり、弱いカードを意図をもって作ることだ。カードを禁止することだ。時折色の役割を変更することだ。基本セットから君のお気に入りのカードを抜いてしまうことだ。そして、可能なかぎりスポイラーを止めさせることだ。

 訴訟の起こった真相をまとめるとこうだ。ウィザーズ社は、君たちにゲーム全体で最高の体験をしてもらうために、財産を守る必要がある。これは我々の必要項目だ。君がその意見に同意しないことは自由だけど、我々の権利に対して敬意を払って欲しい。

 ふぅ! 当初の予定より重い話になっちゃったね。いつも通り、君たちがどう思っているか、意見のメールは歓迎するよ(歴代でもトップクラスのメールの重い週になるだろうね。)

 会社からのレポートを、コラムからじゃなくて、直接受け取りたいって思ってる人はいないだろうしね。


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